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16話 治癒薬と重傷者、そしてギルド中がざわついた日

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-06-26 19:00:21

 この薬は即効性があり、効果がはっきりと実感できる仕様になっている。痛みはすぐに消え、擦り傷程度なら一日で完治する。刺し傷や中程度の傷なら三日ほど、重傷でも一週間程度で治癒する。 服用量によって効果は増幅し、二本飲めば回復速度は二倍となる。患部に直接かけた場合も同様で、二本分を使えば治癒がさらに加速する。ただし、効果が上がるのは最大で二本まで。三本、四本と増やしても、それ以上の効果は得られない。

「これは美味いな。薬と聞いて苦くて不味いと思ってたが……って……あれ? 痛みが無くなって血も止まったな! なんだこれは! スゴイな!」

 冒険者の声がデカくて、宣伝効果もバッチリだな……ありがたい。彼の興奮した声に、周りの冒険者たちが注目し始めた。お陰で注目されて人だかりが出来たけど……軽傷者に使っても宣伝にならないので、俺はケガの程度がヒドイ人を探していた。

「うちのパーティに重傷を負ったヤツがいるんだ! 是非1本貰えないか? 頼む!!」

 別の冒険者が、焦った様子で駆け寄ってきた。

「でしたら食堂まで運んで来て下さい」

 慈善事業じゃなく宣伝なので、皆が見てる前で治さないと意味がないので運んできてもらう。宣伝だからという理由だけじゃなく、不衛生な外より室内で処置をした方が良いだろ。

「分かった。直ぐに運んでくる!」

 冒険者は力強く頷き、ギルドの外へと駆けていった。運ばれてきた人は腹部にモンスターの爪で引き裂かれ、明らかに重傷だった。その傷口からは、生々しい血が滲んでいる。これは……マジで痛そう! 前世の記憶の医者でも大手術だね……内臓まで切り裂かれてるし……爪なので3箇所も引き裂かれてるし。まー死んでいなければ治るでしょ……多分。重傷だし2本使うか……。

「今回は特別に2本使わせてもらいます」

 俺はそう言って、2本の治癒薬を取り出した。

「助かるか? 大丈夫か? 治りそうか? コイツは親友なんだ……」

 運んできた冒険者は、不安と期待の入り混じった表情で俺を見つめた。

「はい。大丈夫です。ですが最低3日間は安静にしてればですけどね……。痛みが消えたからって言う事を聞かずに出歩いたり、あり得ないと思いますが依頼を受けてモンスターの討伐に行って悪化して死んでも治癒薬のせいにしないでくださいね」

「ああ。勿論だ。良く言い聞かせる!」

 冒険者は真剣な表情で頷いた。テーブルに寝かせて、治癒の薬を飲ませてから傷口にも薬を掛けた。薬が傷口に触れると、シューと微かな音が聞こえる。意識が無く死んだようにグッタリしていた冒険者が、わずかに身じろぎ意識を取り戻した。

「クソっ!! 油断した!」

 彼は突然意識を取り戻し、起き上がると大きな声を上げた。怒れる程に回復し、その声に周囲の冒険者たちは驚きの声を上げた。

「あの……痛みが無いからといって、あまり動くと傷口が開いちゃいますし、治りが遅くなりますよ」

 俺が忠告すると、彼は首を傾げた。

「はぁ……? 傷口? ……んっ!?」

 自分の腹部を見て、青褪めていた。傷口が治りかけていることに気づき、彼は呆然としている。

「うわっ! なんだコレ! 痛みが無かったから……気づかなかった!」

「一週間くらい安静にしてれば治りますよ。でも2本使ったので……3日程で治るかもしれませんけど」

「その薬の価格は?」

 彼は興奮した様子で尋ねた。

「1本、銀貨1枚です」

「……銀貨1枚で、この効果か……是非買いたい! 今は持ち合わせが無いが……家に帰ればある! どこに行けば買えるんだ?」

「この通りの空き店舗になってる場所で、明日から販売を開始する予定です」

「そうか。是非購入をしに行くぞ」

 こんな感じで中傷者、重傷者を治して宣伝をしておいた。ギルドの中は、治癒薬の噂で持ちきりになっている。

 治癒薬と体力回復薬も売り込んで好評になったので、次の日からギルドで販売をしなくても良いのかも?

 食堂の一部を借りられて、傷を負った人を待っている時に、冒険者が話をしていたのを聞いた。

「そういえばよ。町を出て道を歩いてたら中級レベルのモンスターが首を斬られて、何体も倒されてたな」

「ああ、俺も見たけど、凄腕の冒険者だなアレは……一太刀の切断面だったぞ。骨もスッパリと斬れてたな……あれはスゴイぞ!」

「そうだな……モンスターに争った傷も無かったから、パーティで戦闘じゃないな。単独での討伐……か、すげぇな。」

 あのモンスターって中級だったんだ……まあ低級って感じもしなかったしなぁ。

「俺達ならパーティ全員で攻撃をして、やっと1体倒せるかって感じだぞ……でも、まぁ無理だろうな。犠牲者が確実に出るな」

 彼らの声には、諦めと羨望が混じっていた。

「誰が倒したんだろうな……是非うちのパーティに入って欲しいな」

「バカか! そんなすごい者が弱小パーティに入るわけ無いだろ!」

「それもそうか……! あはは……」

 彼らは笑い声を上げたが、その目にはまだ、希望の光が宿っているように見えた。

 夜も遅くなって来たので、ミリアに声を掛けた。

「夜遅くまで付き合わせちゃってゴメンな。助かった!」

「いいえ。お役に立てて嬉しいですわっ」

ミリアは、にこやかに答えた。その顔には、疲労の色は見えない。

「それじゃ。俺は明日の朝早くに空き店舗に向かうな。ミリアはどうするんだ? 明日は忙しくなると思うし、明後日くらいにお礼と報告に屋敷に行けば良いか?」

「明日もご一緒させて下さい♪」

ミリアは俺の腕をぎゅっと掴み、その瞳は、まるで星のように輝いていた。

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